伊藤洋輝がドイツで評価を高めた原点は、シュツットガルトでの挑戦にある。2021年夏、ジュビロ磐田から期限付きでシュツットガルトへ移籍した伊藤は、当初から大きな注目を集めたスター選手ではなかった。しかし、ブンデスリーガの強度に適応しながら出場機会をつかみ、センターバックを主戦場にしつつ、左サイドでも起用できる守備者として存在感を高めていった。

その評価を象徴したのが、2021年11月のブンデスリーガ月間最優秀新人賞だった。シュツットガルト公式サイトによれば、伊藤はファン、クラブ会員、専門家による投票で、ドルトムントのドニエル・マレン、フランクフルトのイェスパー・リンドストロムを抑えて同賞に選ばれた。加入から間もない時期にこの賞を受けたことは、伊藤がドイツで早くから評価されていたことを示している。
伊藤が注目された理由は、単に若い日本人DFだったからではない。左利きであり、188センチのサイズを持ち、3バックの左センターバックとしても、左サイドの守備者としてもプレーできる柔軟性があった。特に当時のシュツットガルトは、試合展開や相手の攻撃力に応じて守備配置を変える必要があり、複数の役割をこなせる伊藤の存在は戦術面で大きな意味を持っていた。
現地メディアが注目したのも、この“万能性”だった。2021年12月のバイエルン・ミュンヘン戦を前に、伊藤は左ウイングバックで起用される可能性が報じられた。すでにセンターバックの一角として継続的に出場していたが、直前のヴォルフスブルク戦では試合途中から左サイドでもプレー。守備を厚くしたい局面で、伊藤をサイドに移せることがチームにとって重要な選択肢になっていた。

当時のペッレグリーノ・マタラッツォ監督も、伊藤の存在を守備戦術の中で評価していた。ヴォルフスブルク戦後には、伊藤がいたから終盤に守備的なウイングを起用できたという趣旨の発言をし、伊藤のユーティリティ性を強調した。バイエルンのような強力な攻撃陣を相手にする試合では、左サイドの守備強度を高めながら、必要に応じて最終ラインにも戻れる選手の価値は非常に高い。
伊藤が左ウイングバックで起用される可能性があった背景には、バイエルン戦特有の事情もあった。バイエルンはサイド攻撃の質が高く、相手を押し込んだ状態からクロス、カットイン、中央へのコンビネーションを使い分ける。シュツットガルトがより守備的な配置を選ぶなら、攻撃的なサイドプレーヤーよりも、対人守備に強く、空中戦やカバーリングにも対応できる伊藤を置く判断は理にかなっていた。
また、左利きのセンターバックが左サイドでプレーできることは、守備だけでなくビルドアップにも影響する。相手のプレスを受けた時、左足で自然に外側へボールを持ち出し、縦へ送ることも、中央へつけることもできる。3バックの左CBとしても、左ウイングバックとしても、同じ左足の角度を使って前進できる点は、チームのボール保持に幅を与える。これは、のちにバイエルンが伊藤を評価した理由とも重なる特徴だった。
伊藤の成長は、その後のキャリアにもつながっていく。シュツットガルトでは徐々に主力としての地位を固め、最終的にバイエルン・ミュンヘンへの移籍を実現した。バイエルン公式発表では、伊藤がシュツットガルトで公式戦97試合に出場したことが紹介されており、ドイツでの実績を積み上げた選手として名門クラブに迎えられた。

バイエルン加入時にも、伊藤の左利きであること、センターバックと左サイドバックをこなせることは大きく評価された。ドイツメディア『Bild』は、伊藤が左足を持ち、CBと左SBの両方でプレーできる選手としてバイエルンに加入したと報じている。これは、シュツットガルト時代から見せていた万能性が、欧州トップクラブの補強判断にもつながったことを意味する。
もちろん、伊藤の評価は一夜で築かれたものではない。ジュビロ磐田から欧州へ渡り、ブンデスリーガのスピード、フィジカル、戦術要求に向き合いながら、自分の役割を広げていった。加入当初は未知数だった日本人DFが、月間最優秀新人に選ばれ、強豪相手の守備戦術でキーマンとして語られるようになったことは、伊藤の適応力と成長力を物語っている。
シュツットガルト時代の伊藤洋輝は、派手な得点やアシストで注目された選手ではなかった。しかし、左利きのセンターバックとしての希少性、左サイドにも対応できる柔軟性、守備的な試合運びで必要とされる安定感によって、チームの戦術に欠かせない存在になっていった。バイエルン戦を前に現地メディアが注目したのは、まさにその実用性だった。
伊藤の歩みを見ると、現代サッカーでDFに求められる条件がよく分かる。守るだけではなく、複数のポジションをこなし、ビルドアップに関与し、試合の流れに応じて役割を変えられること。シュツットガルトでの伊藤は、その条件を満たす選手として評価を高めた。後にバイエルンへ移籍することになる土台は、この時期にすでに築かれていたのである。


